それは遠い過去から虚偽もなしにここまで辿ってきた一つの時間が、静かな光の中に、空間となって拡がり、僕を包むのだった。ただ「在る」ということの深い意味を僕が知ったのはここであった。「学ぶ」ということや「作る」ということの前の、「生きる」ということさえ前の「在る」ということの深い意味を、意識とか、経験とか、思想とか、はては生活などということが、人間にあっては、この「在る」ということに比べて、止むを得ないこととはいえ、いかに作為と虚偽と滑稽とでさえあることだろう。そしてこの一番はじめの「在る」ということ一つを知るのに、人間はどんなに苦しまなければならないかを垣間見て慄然とした。それはまたすべての経験の終結でもあるのだろう。人間はいつも中間に生きている。
ー パリ 三月二十六日 ー p86
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