花、情、歌、涙、こうした一語にも、今日までに生きてきた人間の想い、言葉、行いのすべての歴史が刻まれている。言葉を読むとは、そのまま歴史に出会うことであり、書くとは歴史と共に何かを行うことだというのだろう。
第十四章 ー 不可視な「私」-p399
・
客観という、ほとんど迷信のような視座に翻弄されている者は、対象を遠く離れて見ようとする。主観から離れれば離れるほどよく見えると信じてうたがわない。確かにその眼には全体の風景はよく映るだろう。しかし、その人物には「颱風」の中心で何が起こっているかはけっして分からない。実際の台風も、離れている者に迫りくるのは暴風雨だが、その中心では、ときに穏やかな天空があり、外から見るのとはまったく異なる光景が広がっているのである。
第十九章 - 信じることと知ること 「ドストエフスキイの生活」(三)p517
ABOUT ME