一日一文
「生きていればいいこともある」という言い方で、自分や他人を慰める仕方があるが、あれはおかしい。「生きていればいいこともある」とは、裏返し、「生きていればもっと悪いこともある」である。少しも慰めたことになっていない。このような考え方自体が、じつは「苦しみ」のもとになっていることを知るべきだろう。
つまり、あれこれの出来事や境遇を苦しみや喜びと思う、そのことが錯覚なのだ。苦しいのは、それを苦しいと思っている自分であって、それらの事柄自体が苦しみであるのではない。
「気持ちの持ちよう」とは、そういうことだ。あれこれの外的な事柄に動じることのない不動の自己を保つこと、これが、人生の苦しみを苦しみでなくする唯一の方法に違いない。
池田晶子 考える日々 より
「苦しみの正体を見究めない限り」p132
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