一日一文
干していた薬草を取り込むとき、遠方から来た手紙を開けるとき、地元の人の差し入れの芋がいっぱいつまった箱を開けるとき、私ががつがつと急いでいると、
おばあちゃんはよく私を厳しくしかった。
「そうやって扱われたものには、そういう荒っぽい色がついてしまう。そして、一回つくとなかなか取れなくなって、人のほうがそれに操られるまでに力を持ってしまう。はじめのところが肝心なんだよ。」
と言うのだった。子供の頃はせっかちで「どうやって開けたって中身は一緒だよ」と内心思っていたのだが、もしかして違うかもしれない、と思うようになってきたのは、少しだけ薬草茶の仕事がわかるようになってきてからだった。霊的な深い理由があるのかもしれないが、そこのところはよくわからない。
ただ、自分がそれを雑に扱った記憶、というのがそのものと自分の間にしみこんで、決して取れなくなってしまうのは確かなような感じがしたのだ。
よしもとばなな
「王国」その2
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