文箱 ”言の葉の落とし文”

落とし文「 ぶつかって 慈しむ 」”さくらいろ”さま

ぶつかって 慈しむ

……*……*……*……

動詞「ぶつかる」

             吉野弘

  ある朝
  テレビの画面に
  映し出された一人の娘さん
  日本で最初の盲人電話交換手

  その目は
  外界を吸収できず
  光を 明るく反映していた
  何年か前に失明したという その目は

  司会者が 通勤ぶりを紹介した
  「出勤第一日目だけ お母さんに付き添ってもらい
  そのあとはずっと一人で通勤してらっしゃるそうです」

  「お勤めを始められて 今日で一ヶ月
  すしづめ電車で片道小一時間・・・・・・」
  そして聞いた
  「朝夕の通勤は大変でしょう」

  彼女が答えた
  「ええ 大変は大変ですけれど
  あっちこっちに ぶつかりながら歩きますから、
  なんとか・・・・・・」
  「ぶつかりながら・・・・・・ですか?」と司会者
  彼女は 微笑んだ
  「ぶつかるものがあると
  かえって安心なのです」

  目の見える私は
  ぶつからずに歩く
  人や物を
  避けるべき障害として

  盲人の彼女は
  ぶつかりながら歩く
  ぶつかってくる人や物を
  世界から差しのべられる荒っぽい好意として

  路上のゴミ箱や
  ボルトの突き出ているガードレールや
  身体を乱暴にこすって過ぎるバッグや
  坐りの悪い敷石や焦々した車の警笛

  それは むしろ
  彼女を生き生きと緊張させるもの
  したしい障害
  存在の肌ざわり

  ぶつかってくるものすべてに
  自分を打ち当て
  火打ち石のように爽やかに発火しながら
  歩いてゆく彼女

  人と物との間を
  しめったマッチ棒みたいに
  一度も発火せず
  ただ 通り抜けてきた私

  世界を避けることしか知らなかった私の
  鼻先に
  不意にあらわれて
  したたかにぶつかってきた彼女

  避けようもなく
  もんどり打って尻もちついた私に
  彼女は ささやいてくれたのだ
  ぶつかりかた 世界の所有術を

  動詞「ぶつかる」が
  そこに いた
  娘さんの姿をして
  ほほえんで

  彼女のまわりには
  物たちが ひしめいていた
  彼女の目配せ一つですぐにも唱い出しそうな
  したしい聖歌隊のように

……*……*……*……

     

大好きな吉野弘さんの詩。

「ぶつかる」こと その感じ方。

詩を読んで、ボーッとしてしまった。
何故かあれこれ考えずに、かなりの時間、ボンヤリ外を眺めていた。

私は何を感じていたんだろう。。。

言葉って、自分の中でも一般的にも
おおよそ あるイメージを伴って存在してる。

言葉そのものの意味だけでなく、何か纏っているものが大きいと思える。

そしてそのためか、好き嫌いにも繋がる。

だけど、ひとつの言葉に・・・
今までと少し違う新たなイメージが注がれるとき

戸惑いながらも 生まれる想いがある。

見とれてるような 聞き惚れてるような
ただただ何かを感じている自分。。。

私は 私は 私は 。。。

「私」と言っている自分が、時に一番よく分からない気がして
素直に 正直に 疑いたくなったりする。
自分の存在を 疑わしく感じてしまうのだ・・。

ボーッとしているとき、特にそうなる。

自分が風に溶けていたり
お花たちと共に佇んでいたり

まるでおとぎ話の世界みたいに 現実を忘れてしまう。

それでも一応我に返って色々考える。

そしてやっかいなことに、考え出すと止まらなくなる。。。

次から次へと色々なことが浮かんで、解釈して
一喜一憂しながら 
またとてつもなく長時間 悶々としたりする。

ヒラヒラと 何やら舞うように
表と裏が私の中で展開し・・・

行き着くところ いつも思う

まったく 感じるままの この世界

傲慢かも知れないけど 世界は自分にとって存在していると思う

だって、いつだって自分の感じるようにしか感じ取れない。

優しい気分のときは 優しい世界
哀しい気分のときは 哀しい世界

だから きっと

感じるままに 自分で描いてるこの世界

この世界は 弧の世界

360度の全てに 自分がフォーカスしている弧を捉える
中心点は いつだって自分。

私が思い描くものが 私の世界に広がっている。

でも願わくば、
中心点である自分という一点が
何かを主張するのではなく・・

どんな世界をも 360度の全ての一部として慈しみ、
そこに優しい虹を架けるような
僅かながらの謙虚さを
携えて存在しているものでありたいと思う・・

ぶつかってひしめくたくさんの中に
そこに在る優しさや温かさを感じて

その肌ざわり 

安心して愛しむ 中心点でありたい。。。

ぶつかって ぶつかって

傷つくのではなく

ぶつかるものを慈しむ 私になりたい。。。

(photo kazesan)


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Gaju。 管理人
Gaju。管理人suzukiです。 管理運営担当しております。 愛猫たち(東風Cochiと南風Kaji)のときの過ごし方から 日々学ぶ今日この頃です・・・。