落とし文「深きを願う」”さくらいろ”さま

　深きを願う

今日は冷たい雨が降っている。
色づき始めた木々に霞のヴェール。

今朝、いつもより少し早く起きた。

洗顔は素洗い。
薄暗い鏡の枠に映る自分と声なき挨拶。

日課の窓ふきはいつも以上にゆっくりと。
手を動かしながらの対話、誰と？

私の中の私へ
私からあなたへ
あなたの声が　聞こえてくる。

静かな雨よりももっと小さな音。
誰の思いなのだろうと　感じながら。

　･･･*･･･*･･･*･･･*･･･

　　われは草なり

　　　　　　　　　　　　　高見順

　　われは草なり
　　伸びんとす
　　伸びられぬ日は
　　伸びぬなり
　　伸びられる日は
　　伸びるなり
　　
　　
　　われは草なり
　　緑なり
　　全身すべて
　　緑なり
　　
　　
　　毎年かわらず
　　緑なり
　　緑の己れに
　　あきぬなり
　　
　　
　　われは草なり
　　緑なり
　　緑の深きを
　　願うなり
　　
　　
　　ああ　生きる日の
　　美しき
　　ああ　生きる日の
　　楽しさよ
　　われは草なり
　　生きんとす
　　草のいのちを
　　生きんとす