先週2月10日は
石牟礼道子さん御命日でした。
石牟礼道子さん 渡辺京二さんを偲んで
今夜はShinoさんから「みなまた海のこえ」をお届けいただきました。
ゆっくりとお聴きくださいませ。
https://stand.fm/episodes/63ef6f47ab5fe70403fd7367
なお
こちらの絵本巻末「絵本にそえて」
石牟礼道子さんのことばを書き写させていただきます。
常世の舟
しゅうりりえんえん、という言葉は、もちろん辞典には
ありません。狐のおぎんも初めて皆さまの前に出るわけで
すので、辛い世界から出てくるための呪文というか、祈り
を長い間やっていましたから、こういう言葉が出て来ました。
奥深い空にひがん花が一輪浮き出てくる、その花のエネ
ルギーというか、そういう言葉です。本当に苦悩の深いも
のほど、しゃべらないのだ、空の奥に赤い花のように咲い
ているだけだとわたしは思うのです。そんな花の祈りが、
音楽になる寸前の言葉が、しゅうりりえんえんです。
不知火海の渚を廻ってみれば魚や貝たちだけでなく、潮
を吸って生きている樹々や葦の類に、わたしは心うたれま
す。そんような樹や草の姿は遠い昔、わたしたちが海から
生まれた生命であることを思わせます。毒を吸ってはいま
すが、海は原初そのものです。この海を鏡にして覗いてみ
れば、実に意味深い社会の姿が写しだされてきます。意味
を解きしらせてくれるのは、死者たちや苦悶の極で今も生
き残り、生き返ろうとしている人びとです。
狐を登場させましたのは、古老たちや患者さんの坂本嘉
吉、トキノご夫妻からチッソが来た頃、山を崩された狐た
ちが天草から来る舟に頼んで島々に渡ったという話を聞い
たことがあったからです。魚や貝などの名を、こちらの云
い方で出しました。海と人間たち、狐や狸やガーゴたちと
の親密だった世界を描きたかったのです。井川の神様やガ
ーゴたちに加勢してもらって、常世の舟を出させました。
俊先生が助けて下さらねば描けぬ世界でした。
水俣病事件は、今も進行中で終わっておりません。一行で
も、大人になるまで考え続けられる箇所が、皆さまの胸に
残れば喜びです。
(1982年7月10日 第1刷発行)
志乃さん
ありがとうございました。