一日一文
小澤さんが音楽を選び➖音楽に選ばれ、といっても同じ➖いまあるような人間にかれ自身を作りあげたのは、すばらしい正解だった。かれの鏡に照らすことで、僕も自分が文学を選び、いまある人間に自身を作りあげたことを正解だと思う。僕は懐疑的な人間だが、いつも自然体の小澤さんに励まされて、それを認める。
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僕は小澤さんとあらためて長時間にわたり話すことができたのを喜ぶ。それは僕に、その時間の持続のなかにおいて、あの時代に少年として生き、いまにいたるまで根本において生き方と熱望をかえることなしで来たことを、つまり運命を肯定させてくれたから。そしてその思いを、もう僕たちの居なくなる時に向けてすら、延長させてくれるようであるから。2001年7月
小澤征爾✴︎大江健三郎
「同じ年に生まれて」より
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