一日一文
河合
人間は矛盾しているから生きている。
全く矛盾のない、整合性のあるものは、生き物ではなく機械です。
命というのはそもそも矛盾を孕んでいるものであって、その矛盾を生きている存在として、自分はこういうふうに矛盾してるんだとか、なぜ矛盾してるんだということを、意識して生きていくよりしかたないんじゃないかと、この頃思っています。そして、それをごまかさない。
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小川
あるいは一緒にはなれないけど、橋を架けるとか、虹を架けるとか。
河合
僕の言い方だと、それが「個性」です。
「その矛盾を私はこう生きました」というところに、個性が光るんじゃないかと思っているんです。
小川
矛盾との折り合いのつけ方にこそ、その人の個性が発揮される。
河合
そしてその時には、自然科学じゃなくて、物語だとしか言いようがない。
小川
そこで個人を支えるのが物語なんですね。
河合
ええ。自然科学の成果はたとえば数式になったりして、みんなに通用するように均一に供給できる。そして、それで個が生きるから、物語になるんだっていうのが、僕の考え方です。
小川洋子.河合隼雄
「生きるとは、自分の物語をつくること」より
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