今彼らは夕暮を沈黙の水飼場へつれて行き、夕暮が満腹するのを待っているのである。さて、彼らはゆっくりと腰をあげる。そして満腹した夕暮を家のなかへ、温い燈火のそばへ連れて行くのである。
死の沈黙へと赴くまえに、老人はすでに沈黙の一部を身につけている。彼のうごきは緩慢である。
・・・・それはあたかも、彼が今そこへと歩んで行きつつある沈黙を妨害すまいとしているかのようだ。
杖をもった老人の歩みはためらいがちである。彼は、たとえば欄干のない橋の上をーーーその左右からはもはや言葉ではなくて死がたち昇って来るところの欄干のない橋のうえをーーー行くように、沈黙のうえを歩いているように見える。沈黙をたずさえて、老人は死の沈黙へと歩いて行くのである。そして、老人の末期の言葉は、生の沈黙から死の沈黙へと彼をのせて行く一艘の舟のようなのである。
ー幼児と、老人と、そして沈黙ー p136
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