一日一文 365日

一日一文 237. 茨木のり子「食卓に珈琲の匂い流れ」より

ー 答 -

ばばさま
ばばさま
今までで
ばばさまが一番幸せだったのは
いつだった?

十四歳の私は突然祖母に問いかけた
ひどくさびしそうに見えた日に

来しかたを振りかえり
ゆっくり思いめぐらすと思いきや
祖母の答は間髪を入れずだった
「火鉢のまわりに子供たちを坐らせて
かきもちを焼いてやったとき」

ふぶく夕
雪女のあらわれそうな夜
ほのかなランプのもとに五、六人
膝をそろえ火鉢をかこんで坐っていた
その子らのなかに私の母もいたのだろう

ながくながく準備されてきたような
問われることを待っていたような
あまりにも具体的な
答の迅さに驚いて

あれから五十年
ひとびとはみな
掻き消すように居なくなり

私の胸のなかでだけ
ときおりさざめく
つつましい団欒
幻のかまくら

あの頃の祖母の年さえとっくに過ぎて
いましみじみと噛みしめる
たった一言のなかに籠められていた
かきもちのように薄い薄い塩味のものを

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Gaju。 管理人
Gaju。管理人suzukiです。 管理運営担当しております。 愛猫たち(東風Cochiと南風Kaji)のときの過ごし方から 日々学ぶ今日この頃です・・・。