一日一文 365日

一日一文 151. 若松英輔「常世の花 石牟礼道子」より

坂本きよ子さんという水俣病で亡くなった若い女性がいる。石牟礼さんは彼女を知らない。その母親から伝え聞いた言葉として、石牟礼さんは次のように書いている。

何の恨みも言わじゃった嫁入り前の娘が、たった一枚の桜の花びらば拾うのが、望みでした。それであなたにお願いですが、文ば、チッソの方々に、書いてくださいませんか。いや、世間の方々に。桜の時期に、花びらば一枚、きよ子のかわりに、拾うてやっては下さいませんでしょうか。花の供養に(「花の文を - 寄る辺なき魂の祈り」)

水俣病のため、ほとんど動けなくなった体で、この女性は、何かに導かれるように花びらを拾おうとして、這うように庭に向かい、縁側から転げ落ちる。その姿を母親が見つけたのだった。

もうすぐ桜の花が咲き始める。地に落ちた花びらを手に、きよ子さん、そして石牟礼さんへの哀悼の意を表現することもできるのだろう。

ー 亡き者の言葉を宿した闘士 - p9~


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Gaju。管理人suzukiです。 管理運営担当しております。 愛猫たち(東風Cochiと南風Kaji)のときの過ごし方から 日々学ぶ今日この頃です・・・。