一日一文 365日

一日一文 100. 鶴見和子「言葉果つるところ 石牟礼道子の巻」より

水俣の漁師さんたちとか、百姓さんたちの心根というものは、彼らの内部の世界というのは、そういう生命が息づきあっていて、未分化の世界、そういうものでるとあなたはおっしゃってるでしょう。それが影の世界だと。そこに自分がいつでも帰っていく。言葉にすると、その世界は裏切られちゃうのね。そこなのよ、一番の問題は。たとえばあなたが考えていらっしゃるアニミズム、大きな生命体の中のさまざまな小さな生命体が息づき合って、大きな生命体をつくっている、そういう世界が一人一人の漁師さんとか、百姓さんとか、あなたのお母さまとか、そういう方たちの心の中にある。だけどそれを今度は表そうとすると、言葉を使わなくちゃならない。で、言葉を使ったとたんにその影が消えてしまう。それであなたが、「この世が影を失うとき」で、最後に、「ではどうやって戦争体験を伝達できるのでしょうか、言葉を失ってしまうと、それでどうやって伝達できるのでしょうか」といって、そこで講演が終わってる。「きょうは皆様にお目にかかれてありがとうございました」で終わってる。言葉果てたるところから文学が出発する、そして文学は言葉果つるところに到達する、かつそこが出発点になる。それをあなたが表していらっしゃる。伝達というのも言葉で、変な言葉だけど、伝えるということね。一番大事な伝え方は、あなたが言っていらっしゃる、小さな死は残されたものの魂が受け継ぐ、それで生と死が循環していく、大きな生命体の中で、そういうことが近代では非常になくなってきた。

対話まんだら 第2場 ー息づきあう世界ー 短歌  p38~


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Gaju。管理人suzukiです。 管理運営担当しております。 愛猫たち(東風Cochiと南風Kaji)のときの過ごし方から 日々学ぶ今日この頃です・・・。