夕陽のひろがるのと同じ感じでみっちゃんには、いろいろなものたちの声が聞こえました。草や、灯ろうとしている花たちの声とか、地の中にいる蚯蚓とか、無数の虫たちの声とか、山の樹々たちや、川や海の中の魚たちの声とかが、光がさしひろがるのと同じように満ち満ちと感ぜられ、それらは刻々と変わる翳りをもち、ひとたび満ち満ちたその声は、みっちゃんの躰いっぱいになると、すぐにこの世の隅々へむけて幾重にもひろがってゆくのでした。なんだか世界と自分が完璧になったような、そしてとてももの寂しいような気持ちを、そのときみっちゃんは味わいました。
家猫のみいが耳をじいっと立てて人間と離れ、畠の隅の岩の上なんかにいて、夕陽の方を向き、いくら呼んでも聞こえないふうで、世界の声に聴き入っているような姿をしているわけが、そのときわかったように思えました。
ー世界の声に聴き入る猫ーp78
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