しょせん世のもろもろの美しきものに私達があこがれるのも、人間の弱さからであります。それが墜落しやすい私達を辛うじてささえもし、またそれらのものの前でなら、感傷的になることなく、安心して、手放しで涙をこぼすことも出来るのです。大人も泣くことができるのです。
自分が弱いものであることを痛感しないかぎり、芸術家でも美術家でもありません。人間の感情、気まぐれな好みとか、たよりない言葉は十人十色であり、その時々変わるものであるにかかわらず、また美しいものは世の中に多いにもかかわらず、美はたった一つしかない、
ーーーそういうことを美術は教えます。たった一つしかないからには、それはものの美しさであるとともに、それをつくった、あるいはそれをつくらせた人の美しさでもあります。結局、真の人間嫌いとは、ですから、ほんとうは誰よりも人間を愛する人のことをいうのです。
ー たしなみについて ーp129~
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