嗚呼 僕も
生きているんだ
青空の
真っただ中に
融け込んでいる
ー 生き抜くという旗印 - p4~
けれども、僕は「生きる」ことにした。
それは、嵐にこぎ出す、航海の始まりのようでもあった。
まもなく、座れなくなった。
おいしいご飯も食べられなくなった。
一年間に家の外に出られたのが二回だけという年もあった。
人が怖くなったときもあった。
いったい自分が本当は、何を考えているのか分からなくなった。
青春時代を、抉りとられた。
母親を号泣させた。
父親と激突した。
若者らしく友達とバカ騒ぎをして過ごすということもできなかった。
やがて、ベッドで寝たきりの生活になった。
吐き気地獄で、気が狂いそうになった。
自分の若い人生を、余生だとしか考えられなくなった。
ずっと呼吸器を付けるようになった。
今まで恋愛とも無縁だった。
これらを、「生きる」ことで味わってきた。
あれからさらに二十年の歳月が経ち、僕は今、三十七歳になった。
病状は、一層進んだ。
あまりにも多くのことを失った。
思うことはたくさんある。
僕は立って歩きたい。
風を切って走りたい。
箸で、自分の口からご飯を食べたい。
呼吸器なしで、思いきり心地よく息を吸いたい。
でも、それができていた子どもの頃に戻りたいとは思わない。多く失ったこともあるけれど、
今のほうが断然いい。
大人になった今、悩みは増えたし深くもなった。生きることが辛いときも多い。
でも「今」を人間らしく生きている自分が好きだ。
絶望のなかで見いだした希望、苦悶の先につかみ取った「今」が、自分にとって一番の時だ。
そう心から思えていることは、幸福だと感じている。
授かった大切な命を、最後まで生き抜く。
そのなかで間断なく起こってくる悩みと闘いながら生き続けていく。
生きることは本来、うれしいことだ、たのしいことだ、こころ温かくつながっていくことだと、
そう信じている。
闘い続けるのは、まさに「今」を人間らしく生きるためだ。
生き抜くという旗印は、一人一人が持っている。
僕は、僕のこの旗をなびかせていく。