人間、おなかがすいては何にも出来ない。だから、どんなときにも、みんなに美味しいものを食べさせるのが女の仕事。そして、それが母の張り合いだったらしい。
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昔、子供たちに何とか美味しいものを・・・と、父から渡されるたしないお金の中で苦労していた母。月末になると牛肉のこまぎれにくず野菜のカレーもどき、お豆腐のおからを油でいためてソースをかけた台抜きのトンカツがよく出てきた。
「どう?おいしいかい?」
そう言いながら私たちの顔をのぞきこむ母はいきいきしていた
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狭いお勝手で、しゃがんだり、のびあがったり・・・手伝おうとする家人とぶつかったりしながら、また、ちょいちょい庖丁をにぎることになってしまった。食べやすいように、薄く切って柔らかく煮こんだとりと野菜のいため煮、好みのだしにいろんな味噌をまぜあわせたしじみの味噌汁など。
黙って食べる家人の顔をそっとのぞいて、
「どう?おいしい?」
などと、言ったりしている。
生き甲斐と言うと、なんとなくむずかしいけれどーーー
いまの私を支えてくれるのは、ほんの小さな張り合いである・・・昔の母と同じように。
私はそれを、いつまでも大切にしなければーーーそう思っている。
ー ”張り合い”ということ - p111~
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