「りんごは赤い」という言葉に縛られて、りんごの豊かで複雑な赤さを味わう能力を失う。いかなるりんごを見ても、「赤いもの」と一括りにしてしまい、一つ一つのりんごの赤さの違いを見失ってしまう。「日本人」「中国人」というような言葉によって、人間をひとまとめにしてしまい、軽蔑し合ったりいがみ合ったりして、挙げ句の果てに殺し合ったりもする。「お金」という概念に縛られて、お金なしには生きられないと思い込み、お金に換算できないすばらしさを簡単に手放してしまうのも、言葉のなせる技である。
このような歪んだ知性こそは、私たちの不幸の源泉である。
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「老子」は、この固定化の危険性をさまざまな角度から指摘し、粘り強く繰り返し、叱咤激励する書物である。それは、一度言われたからわかるようなことではなく、繰り返し諭されなければ、私たちの中に入って来ないからである。そうすることで読む者は、ここに込められた知恵を、生活の中で把握し豊かに生きる道を見出すことができるようになる。
ー 序文 -p4より
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