一日一文　254. 谷川俊太郎「空の青さをみつめていると」より

ー　夢　ー

ひとときすべてを明るい嘘のように
私は夢の中で目ざめていた
私は何の証しももたなかつた
幸せの思い出の他に

ひとの不在の中にいて
今日　私はすべてを余りに信じすぎる
そうしてふとひそかな不安が私を責める
不幸さえも自らに許した時に

樹の形　海の形　そして陽・・・・
風景の中のひとを私は想う
そのままに心のようなその姿を

私はかつて目ざめすぎた
今日私は健やかに眠るだろう
夢の重さを証しするために

（六十二のソネット　p57）