「げんきな日は、はがきに まるをかいて、
まいにち いちまいずつ ポストにいれなさい」
ちいさないもうとは、
まだ字がかけなかったのです。
ちいさないもうとは、
おかあさんのぬった はだぎと、
おとうさんのなまえが かかれた
たくさんの はがきをもって、
えんそくにでもいくように、うれしそうに、
とおくへと しゅっぱつしました。
いっしゅうかんご。
ちいさないもうとから、
はじめてのはがきが とどきました。
はがきいっぱい、はみだすくらいの、
おおきな、おおきな、あかえんぴつのまる。
いなかには、こことちがって、
おいしいたべものが まだまだあるんだね、
だから こんなに げんきなんだね、
と わたしたちは あんしんして、はなしました。
ところが、つぎの日から、
きゅうに まるは
ちいさくなってしまいました。
くろえんぴつでかかれた、ちいさな、まる。
まいにち、まいにち、
まるは ちいさくなっていきます。
そうしてあるとき、ついに、
ばつになってしまったのです。
やがて、ばつのはがきも、
こなくなってしまいました。
しばらくして、おかあさんが、
ちいさないもうとを むかえにいきました。
ちいさないもうとは、ひどいかぜをひいて、
せまいふとんべやに ねかされていたそうです。
ちいさないもうとが、
わたしたちのいえに かえってくる日。
わたしとおとうとは、にわになった かぼちゃを、
ぜんぶもぎました。
まだちいさなやさいをとると おこるおとうさんも、
この日は なにもいいません。
かかえるほどの おおきなかぼちゃから、
てのひらにのるくらいの ちいさなかぼちゃまで、
にじゅうなんこも、へやに ずらりとならべました。
なんとかして、ちいさないもうとに、
わらってほしかったのです。
ちいさないもうとは
なかなか かえってきません。
ずっと まどからみはっていた おとうとが、
よるおそく、ようやく
「かえってきたよ!」
と おおきなこえで さけびました。
ちゃのまに すわっていた おとうさんは
ばっと たちあがると
はだしで そとに かけだしていきました。
ますます
ちいさくなってしまった
いもうとをだきしめて
おおん
おおん
と こえをあげて なきました。
いつも おこってばかりの こわいおとうさんの
おおきななきごえが しずかなよるに ひびいていました。
それからまもなく せんそうはおわり
わたしも おとなになって
ちいさないもうとも おおきくなりました。
ちいさかったいもうとがおくった、
あの 字のないはがきは、
どこに しまわれたのか、
あのあと、わたしはいちども、みていません。
・
・
原作=向田邦子
文=角田光代
絵=西加奈子