一日一文 365日

一日一文 317. 塔 和子「塔 和子 全詩集 第三巻」より

ー 起床 -

蕾が
とどめられず膨張してゆくさまに似て
体の奥の方から
じんわりと
満たされてゆくこころよさを
じいっと受け止める
私はいま
枕の上の咲きたての花だ
ばっちりと目をあけて
在る私にさわる

寝につくまでと
目覚めるまでの空白が
綿の花のようにやわらかくほぐれる
この充実感の中で起き上がる
今日と昨日が
すきまのない線でつながる

それから
私は
もう一枚の皮をぴったりつけるように
下着をつける
ぬけがらをしまつするように
夜具をたたむ
ああ
朝のカーテンの内側は
古い香水瓶のように
かすかに香る

私でいっぱいだ

p846 (1989年9月「青松」)


ABOUT ME
Gaju。 管理人
Gaju。管理人suzukiです。 管理運営担当しております。 愛猫たち(東風Cochiと南風Kaji)のときの過ごし方から 日々学ぶ今日この頃です・・・。