一日一文 365日

一日一文 166. 谷川俊太郎「自選 谷川俊太郎 詩集」より

ー できたら -

素顔で微笑んでほしい
できたら
愛に我を忘れて
その瞬間のあなたは
花のように自然で
言葉のように優雅で
そのくせどこかに
洗い立ての洗濯物の
日々の香りをかくしている

かけがえのない物語を生きてほしい
できたら
小説に騙されずに
母の胸と
父の膝の記憶を抱いて
涙で裏切りながら
涙に裏切られながら
鏡の中の未来の自分から
目をそらさずに

時を恐れないでほしい
できたら
からだの枯れるときは
魂の実るとき
時計では刻めない時間を生きて
目に見えぬものを信じて
情報の渦巻く海から
ひとしずくの知恵をすくい取り
猫のようにくつろいで

眠ってほしい 夢をはらむ夜を
目覚めてほしい 何度でも初めての朝に

ー 詩の本 ーp373~


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Gaju。 管理人
Gaju。管理人suzukiです。 管理運営担当しております。 愛猫たち(東風Cochiと南風Kaji)のときの過ごし方から 日々学ぶ今日この頃です・・・。