古人の抱いた桃源の夢想ーーーそれが浄土の幻想と結びついて、この山上の地を択ばせ、この池のほとりのお堂を建てさせたのかも知れないと思われるが、ーーーそれをわれわれは自分たちと全然縁のない昔の逸民の空想だと思っていた。しかるにその夢想を表現した山村の寺に面接して見ると、われわれはなおその夢想に共鳴するある者を持っていたのである。それはわたくしには驚きであった。
しかし考えてみると、われわれはみなかつては桃源に住んでいたのである。すなわちわれわれはかつて子供であった!これがあの心持ちの秘密なのではなかろうか。
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