ー 花を奉るの辞 -
春風萌すといえども われら人類の劫塵いまや累なりて 三界のいわん方なく昏し まなこを沈めてわずかに日々を忍ぶに なにに誘なわるるにや 虚空はるかに一連の花 まさかに咲かんとするを聴く ひとひらの花弁 彼方に身じろぐを まぼろしの如くに視れば 常世なる仄明りを 花その懐に抱けり 常世の仄明りとは この界にあけしことなき闇の謂にして われら世々の悲願をあらわせり かの一輪を拝受して今日の仏に奉らんとす
花や何 ひとそれぞれの涙のしずくに洗われて咲出づるなり 花やまた何 亡き人を偲ぶよすがを探さんとするに 声に出せぬ胸底の想いあり
それを取りて花となし み灯りにせんとや願う 灯らんとして消ゆる言の葉といえども いずれ冥途の風の中にて おのおのひとりゆくときの花あかりなるを
この世を有縁という あるいは無縁ともいう その境界にありて ただ夢のごとくなるも花かえりみれば 目前の御彌堂におわす仏の御形
かりそめのみ姿なれどもおろそかならず なんとなれば 亡き人々の思い来たりては離れゆく 虚空の思惟像なればなり しかるがゆえにわれら この空しきを礼拝す 然して空しとは云わず
おん前にありてただ遠く念仏したまう人びとをこそ まことの仏と念うゆえなればなり
宋祖ご上人のみ心の意を体せば 現世はいよいよ地獄とや云わん 虚無とや云わん ただ滅亡の世迫るを共に住むのみか ここに於いて われらなお 地上にひらく一輪の花の力を念じて合掌す
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