一日一文 365日

一日一文 9.三浦綾子「塩狩峠」より

それはいかにもふしぎだった。
信夫は今まで自分の家の庭を見ていても、
いまだかつてこんなにも花の美しさがふしぎに思われたことがない。
毎年信夫の部屋の前に山吹が咲き、アヤメが咲きボタンが咲いた。
ボタンの時期がくればボタンの木にボタンの花があでやかに咲く。
山吹の時期がくれば山吹の枝に山吹の花が黄色に咲く。
それは何の変てつもない、あたりまえのことであった。
だがはたして、それはあたりまえといえるだろうか、
信夫はいま雨にぬれている紅バラを見た。
この土の中から、白や黄色や青や赤の、さまざまの花が咲くことに、
なぜ自分は一度も驚いたことがなかったのかと思わずにはいられなかった。
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Gaju。 管理人
Gaju。管理人suzukiです。 管理運営担当しております。 愛猫たち(東風Cochiと南風Kaji)のときの過ごし方から 日々学ぶ今日この頃です・・・。