一日一文 365日

一日一文 79. 西加奈子「おまじない」より

「本当に燃やしたいものを、」
おじさんはそう言うと、コホンと咳をした。
「燃やすことができなくてすみません。」
おじさんはその言葉で、プロフェッショナルの枠から、
少しだけこちらにはみ出してくれた。
余計なことを言わないこと、軽口を叩かないことにかけては、
おじさんの右に出る者はいなかったはずなのに。

「あなたは悪くない。」
おじさんが言った。
おじさんの声は、今まで聞いた中で一番乾いていた。
乾いて、強くて、あたたかかった。
まるっきり炎みたいだった。もちろん雨なんて、ものともしなかった。
「あなたは悪くないんです。」
私の目から、だらだらと何かが流れていたけれど、
それはきっと涙ではなかった。

ー 燃やす ー p26~


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Gaju。 管理人
Gaju。管理人suzukiです。 管理運営担当しております。 愛猫たち(東風Cochiと南風Kaji)のときの過ごし方から 日々学ぶ今日この頃です・・・。