ー 朝になると ー
朝になると
いってくるわと云って
樹々のしげみの中にかくれてゆく菜穂子は
髪の毛もまだ短くて二本の固い三つ組にあみ
小鳥のように見えなくなる
汽車にのって学校へいくために
早くかるくふんでいく足は
れんげやきんぼうげの花の上を
出来たての風のようにたのしげにいくだろう
つめたい朝の空気に
とおいとおい見えない空のふかさが
その上に燃えているだろう
矢のゆくえを見守る人のように私は
もう何も見えないものを聴き知ろうとして
いつまでもうすあおい枝々のかげに
前掛で手をふきながら
たたずみみつめているのだ
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