「どうやらこの家には、四十年も国鉄を立派に勤めあげた、年金生活者の居どころはないようだ。こうなったら、荷物をまとめて出てってやる。かならず実行してみせるぞ。猫といっしょに暮らすんだ」
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石段をおり、猫の縄張りと自動車の縄張りを隔てている鉄柵を越えると、彼の姿は猫になっていた。
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ホンモノの猫たちは、猫人間を避けることもなく、いばりちらすこともなく、完全に対等に扱ってくれた。それでも、ときどきホンモノの猫同士、ささやきあうのが聞こえた。
「俺たち、人間になんてこれっぽっちもなりたくないよな。人間界ってところは、ハム一枚だって、目玉が飛び出るほど高いらしいぞ」
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