かなしみを口にのぼせぬ人なりきいかばかりをぞ胸にかかえし
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向きあへば仏もわれもひとりかなほのあかりして蘭の花咲く
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傷をもってしまったと云うことは恥ずかしいことなのであろうか。実際私は悪いことをしているようにはずかしがっている。そのなかで、幻想をすてよ幻想をすてよ、もっともっと底にうごめく階級のメタンガス地帯を直視せよと云い聞かす。
すべての色彩が失せ、突然愛と云う言葉が開花する。むかしから愛は私の主題であったと想い出す。むかし・・・とは。
ひとりの愛、ひとくみの愛がみんなの暮しに密着していたであろう太古のことをなぜ私は、むかしはそうであったと想い出すのであろう。私の中の女が、母が、怒りのためにそれを知ってしまったのだ、と云い聞かす。
― 詠嘆へのわかれ ーp294
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