ー 四季 - カンツォネッタ 10
幼い日々は、緑の草地に似ている、
無限の空間にひろがる
永劫の時間を刻むかのようで。
あたりの人も動物たちも
しっかりとひとつになる、
草や植物たちもいっしょに。
すばらしいことどもが、小羊が
喰む草に散り咲く幾千の
花の数だけあって。
太陽は昇るとき、愉しさあふれる
空腹をたずさえてきて、沈むときには、
ゆっくりとした睡眠をもってくる。
青春の日々はあれくるう海に似ている。
おまえの小舟は、一瞬も
平穏な波を知らなくて。
欲望があたらしい大陸を
求めつづける。まだだれも踏んだ
ことのない世界を。
これまでに存在し、これからも
変わらないことすべてを、たましいは
燃え疲れて、蔑み、
どうしてよいかわからない
ほど、その朝、人生は、
自分から遠いと思う。
水晶のみずうみは
成熟の日々で、それは
休憩の、仲なおりのとき、
痛みも口をとざして。
労働にいそしむ一日が
ゆったりと紡がれ。
ひかりのなかで、なにもかもが
かがやきに満ち、かつて憎悪した真実も
いまでは、完璧なものにみえる。
そのままのキアレッタを愛し、
少年のころに似て、労するものには
時間も、もういちど永遠と映って。
だが老いの日は冬だから、
富める者には、愉しくはあっても、
貧者にとってはすさまじいことだらけ。
自分のたからを手に
持っていながら、無用の心配に
あちらこちらで、擦りへるばかり。
己のためにと貯めこんだ
なにほどもない財産まで失うのは、
このどれよりもつらい年齢。
だが、財宝を積む者も、失う
者も、やがてはすべてが忘却の
彼方、雑草の繁る草地に埋もれて。
須賀敦子訳 p145~
ABOUT ME