枝先に散り残った葉のあいだから、巧みな仕方でぶら下がっている蛹にしても、苞に包まれた木々の芽にしても、活動を停止している姿、それでいて期待と夢を未知の季節に向けている姿が、まことに貴く見えます。
この、止むを得ぬというより当然の、冬の静かな眠りを、私も安らいの気持ちを満たして見詰めていると、自然の、無駄のない営みが、あらゆる美を越えた、崇高な整いに思えるのです。
ー Ⅳ ー p17
磯を下って波の打ちあがる岩まで来れば、そこから先は、岩に砕ける波の音が、沖へ沖へと余韻をひいて行くばかりです。その沖には雲の表情ははっきりと見えず、海と天との境が光のからみ合いです。
ところがそうした一日の終わりの、そのまんまの夕暮は、きれいな色で世界を包み、花の中で独り蜜に酔う虫の気持ちです。
一日の終わりを飾るために、五つ六つの塊となってやってきた雲は、赤と青との、幾重にもぼかされた空で、金にもえて消えて行きます。
華やかな夕暮は、遠い天上の調べをきかせる星の夜を予感しています。
ー Ⅵ ー p22
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