一日一文 365日

一日一文 306. 茨木のり子「詩集 対話」より

ー もっと強く -

もっと強く願っていいのだ
わたしたちは明石の鯛がたべたいと

もっと強く願っていいのだ
わたしたちは幾種類ものジャムが
いつも食卓にあるようにと

もっと強く願っていいのだ
わたしたちは朝日の射すあかるい台所が
ほしいと

すりきれた靴はあっさりとすて
キュッと鳴る新しい靴の感触を
もっとしばしば味わいたいと

秋 旅に出たひとがあれば
ウィンクで送ってやればいいのだ

なぜだろう
委縮することが生活なのだと
おもいこんでしたまった村と町
家々のひさしは上目づかいのまぶた

おーい 小さな時計屋さん
猫背をのばし あなたは叫んでいいのだ
今年もついに土曜の鰻と会わなかったと

おーい 小さな釣道具屋さん
あなたは叫んでいいのだ
俺はまだ伊勢の海も見ていないと

女がほしければ奪うのもいいのだ
男がほしければ奪うのもいいのだ

ああ わたしたちが
もっともっと貧婪にならないかぎり
なにごとも始まりはしないのだ。


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Gaju。 管理人
Gaju。管理人suzukiです。 管理運営担当しております。 愛猫たち(東風Cochiと南風Kaji)のときの過ごし方から 日々学ぶ今日この頃です・・・。