古い言葉だが、彼女の本で出会って、私のなかで決定的によみがえった言葉が「生類」である。
~
石牟礼道子は、壮大な「いのち」の連環を詩情に照らされた言葉によって描きだした稀代の思想家でもあった。その言葉は、現代人が考えるような「哲学」といういかめしい姿をしていない。彼女は概念を弄さない。「いのち」を生きたまま、言葉にのせて運ぼうとする。
~
人間が、他の生類と心を通わせること、それは石牟礼さんの原体験であり、それが失われつつあることを彼女は本当に憂えていた。私たちは人間から得ることのできない慰めや励ましを生類から得ている。その自覚を取り戻せなければ世はいっそう闇に覆われると彼女は感じていた。
ー 闘いと祈りの生涯 ーp160~
会いたい人に会えるのは悦ばしい。だが、会えないが、互いに会いたいと思う気持ちがつながるのは、それに劣らない。会えないときこそ、相手を強くおもい、心でふれあっているようにも感じられる。
今も、私は彼女に会いたいと思う。以前よりもずっと強くそう願う。彼女が亡くなってから、わたしの部屋にある彼女の著作は、かつてとはまったく異なる姿をしている。それは、同時代の敬愛する詩人の軌跡であるだけでなく、彼女がいう「アニマ」の世界へと導いてくれる道標になった。
ー 人生の大事 あとがきに代えて ーp170
ABOUT ME