ー 波の香 ー
小夜中に海にむかへば
いみじくも香ぞうつる、
ほのめきて、むかし、谷間の
蘭の花の露あり、
みだれては、桂の杜の
こぼれ散る木々の下露、
さながらに香をば伝えて
わが袖に浸まむとするかな。
見かへれば、昔恋しき
かなしみは海にもあるか、
潮沫のひとつひとつや
われとわが夢に籠りて
覚されて泣くにも似たる、
波の香の深きが中に。
ー まひる野 ー p15
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ー 波の香 ー
小夜中に海にむかへば
いみじくも香ぞうつる、
ほのめきて、むかし、谷間の
蘭の花の露あり、
みだれては、桂の杜の
こぼれ散る木々の下露、
さながらに香をば伝えて
わが袖に浸まむとするかな。
見かへれば、昔恋しき
かなしみは海にもあるか、
潮沫のひとつひとつや
われとわが夢に籠りて
覚されて泣くにも似たる、
波の香の深きが中に。
ー まひる野 ー p15