一日一文 365日

一日一文 133. 和合亮一「 往復書簡 悲しみが言葉をつむぐとき」より

若松英輔さんへ  和合亮一より

お手紙の中の「見えない涙」という言葉にはっとしました。
私は震災の時、何度も見える涙を流しました。家の中に閉じこもり、言葉を紡ぎながら、止まらずに幾度も眼ににじませていました。
直接にそれらの言葉を、ツイッターに発表しました。キーを打つ指と書こうとする心は止まりませんでした。それは私の目尻に涙のぬくもりの感触がいつもあったからです。それはほぼ一カ月も続いた、およそ一〇〇二回と数えられた余震と無言なる放射能の、体と心への直接の訴えによるものに他ならなかったのかもしれません。

そして三年が経ち、これから長く向き合っていかなくてはいけないのは、若松さんが語ってくれた「見えない涙」だと確かに感じています。

読んで下さった方の声がすぐにやって来る・・・、
これまでの創作の現場にはない机の上の光景でした。怒りと絶望の心に閉じこもり書き続けた心の呟きであったのに、精神をしだいに目覚めさせてくれたのは、投げ返されてくる見知らぬ読み手たちの言葉でした。その力は凄いと思いました。一個の人間の心を救い出すエネルギーに満ちている、と。

震災の時に、言葉を失ったと誰しもが言いました。しかし私はやはりそれを言葉で取り戻すしかないのだと覚悟してきました。災いの後に、津波でなくなった知人への鎮魂のための詩をずっと作り続けています。筆を動かしたり、中空を仰いだりしながら、不可視の<涙>をずっと流し続けても良いのだと日々、言葉そのものに教えられています。
(二〇一四年四月十五日)

ー 投げ返される言葉の力 - p21~


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Gaju。管理人suzukiです。 管理運営担当しております。 愛猫たち(東風Cochiと南風Kaji)のときの過ごし方から 日々学ぶ今日この頃です・・・。